初恋35番 この胸の想いを
First Love 35
今回は、墨線の無い版画の版の彫りや版組みについて説明してみましょう。
中央の人物 #1には墨線が有りますが、背景のデザイン #2には墨線がありません。
背景の主版(他の色が入る場所の基準となる版)は下絵#2の緑の下地と茶色の図柄、この二つを使う事とします。
まず、トレーシングペーパーに必要な部分を写し取ります。#4
それを、カーボン紙を用い色版用の版木に写し取り彫り上げます。#5
彫り上げた版をいつもの要領で版木に転写します。
この時、転写に用いる紙は、普通紙でも良いのですが、後々の作業の事を考えると、やはり裏からでも図柄が透けて見えるトレーシングペーパーの方が良いと思います。
一度、油性のインクで図柄を摺り取ったトレーシングペーパーで二三回は転写できるのですが、やはり次第に薄くなってしまいます。#6は一回目、#7は二回目の転写の例です。
人物の墨版は予め色版用の板13枚に転写をしておきます#3
#1
#2
#3
#4
#5
#6
#7
#8
#9
#10
#11
予め人物の墨版を転写した板
次に、もう一つの主版になる茶の線を、緑の地色の転写が済んだ板にカーボン紙で引き写し#8、彫り上げます#9。
転写のためにインクをのせた版
部分。緑の部分は地色と重なるところ。
#12
#13
#14
彫り上げた版にインクを載せ#12、トレーシングペーパーに摺り取り#13、緑の地色の転写が済んだ板に写し取る#14.
きちんと転写されているか点検#15
#16
#17
背景の主版となる二版の転写が済んだ状態#16、と、 部分の拡大#17
#18
転写に用いる油性インクはどうしても乾きが遅いので、扇風機で風を送り乾かしている様子。インクには乾きを早めるためにドライヤーを混ぜて使っています。
必要な枚数全てに黒、緑、茶の三版が転写された状態。この時一番大切なことは、人物の黒、地色の緑、そして茶の各版が、お互いにずれたりしないように、正確に転写されている事です。
下はまた別の作例です#20。民家の軒先の雪をかぶった椿の花の版画ですが、各色を彫り上げては転写すると言う作業を繰り返しています。 版自体がまるで摺り取られた版画のようになって行きます。
#20
#21
#22
#24
#25
#26
#27
#29
#30
転写が済んだ板に、再び#2のトレーシングペーパーを利用して、色ごとに、必要な部分を板に取って行きます。#21−#27
この時、特に気を付けなくてはいけないことは、この#2のトレーシングペーパーが、その日の気温、湿度によって伸び縮みすると言う事です。
転写された線と、30センチに付き2,3ミリのズレを生じる事が多いのです。その場合は常に、既に転写さてれいる線を基準として合わせていきます。
必要な色板13枚全ての色分けが終わった状態 #30
#15
#19
#23
#28
下絵から彫り上がりまで約9週間かかりました。
彫り上がった色版全13版を載せておきます。
2007・october 7th
背景の色見本
初恋三十五番
「この胸の想いを」
First Love 35
List Number 11−16