オークションについて
今回、思っても見なかった「回顧的」なソロ・オークションのお話、点数も80点と大きな展示で、とても嬉しく思っています。この様な企画を頂き感謝いたします。ありがとう!
思えば版画を作り続けて44年、これまではいつも新作の事で頭が一杯で、ゆっくりと過去の作品を眺めたりする事もありませんでした。良い機会なので、今回は自分の昔の作品の殆んど全てを見直し、80点の、意味ある出品作を選び出す事にしました。完璧を期すために、丸一週間を作品の選択、点検、解説に当てる事にしたのですが、8日かかってしまいました。
ただ、自分自身にとっても、また、息子達に、私の仕事について書き残して置くと言う意味においても、この、版画の制作から離れ、過去の作品を振返ってみた8日間は、決して無駄では無かったと思っています。
私自身、今回のような作品を揃えた出品は、もう二度と出来ないのではと思っています。
さて、今回の出品作中の特別な作品について解説しておきます。
1・ 今回に限っての出品作品
Clown (List 80) 1980年,CWAJ第25回記念展において、御臨席の皇后陛下美智子様に御説明申し上げ、CWAJより献上された作品。エディションの199枚は直ぐに売り切れ。今回送ったものは、息子達に記念に残した内の一枚。以後、私自身が出品する事はない。
White Fox sisters (List 50) 同様にエディション199は完売。この作品は、私のこの時代を代表する作品の一つとして、どうしても見て頂きたく、息子のために取っておいたものを出品。
Dedication to Sumio Kawakami (List 49) 私には三人の版画の恩師がいます。木版画への興味を抱かせた川上澄生、実際の技術の全てを教わった吉田遠志、芸術家の生き方、覚悟を身を持って示した日和崎尊夫。この作品はその一人、川上澄生の30回忌に霊前に捧げたものです。
3枚を摺り、一つは私の仕事場にかけ、一つは御遺族が持たれています。作中の詩は自作。 「おにごと」とは鬼ごっこの意。澄生は、出来るなら、おにごとの鬼となって、好きなあの人だけを、何処までも追いかけたいと詩に書いています。
また、はつなつのかぜも、澄生はその版画の作中に、初夏の風になって、貴女の後ろからふき、貴女の前に立ちふさがりたいと書き、その作品を見た棟方志功が油絵を止め、木版画を志した話しは良く知られています。
EX−LIBRIS B (List 70) 私自身のための蔵書票。
私はこれまで6点の蔵書票を作りました。その内の1点は失敗作で公開も販売もしていません。残りの5点は、作品としてもUkiyoe−Todayにつながるもので、外せないと考えています。
15版、50回を越える摺り度数は蔵書票の世界では前代未聞。その為、去年スイスで開かれた蔵書票のコレクターの世界大会では、日本を代表する蔵書票としてその5点全てが特別展示されました。その後、その作品はスイスの美術館に収蔵されました。これは最後のエディションになります。
2枚を美術館、1枚をフランスのコレクター、1枚を私が所蔵
ただ、図柄がエロティックなので、もし、出品が難しいようなら外してください。
White Fox Fairies #2 (List 17) このシリーズを制作した時は、同じ図柄を、何種類かの紙に試し刷りをして、その効果を確かめました。その作品にはS・Pといれました。これはその一枚。実際にエディションを付けて出された物とはかなり表情が違っていますが、よいものです。これと同じ摺りの物は他には有りません。
White Fox Fairies #3 (List 48) この作品も同様のS.P
このほかの,同シリーズの作品 List 19,20は、A.Pを含め残り2,3枚です。
2.今後の出品が難しいもの
今から35年ほど前の話しになります。学生結婚をした私達が、新婚生活をスタートしたアパートは、六畳一間に四畳半の台所しかない、ぼろぼろの木造アパートでした。 ただ、家賃は当時の相場の半額以下の8000円でしたが。
このアパートが、、実は大雨のたびに雨漏りをし、後で気付くと、押入れの奥に積んでおいた版木の一部がかびたり、腐ったりしてしまったのでした。
そのため、摺っておいた在庫を売り切っても、その後の摺り増しが出来ないのです
。(限定枚数の全てを一度に摺りきることは無く、通常20から50枚ほどを摺る)
エディションの大半を残したままですので、とても勿体無いのですが。
もちろん、新たに版木を彫りなおすと言う事も考えられるのですが。それは、新作の製作で精一杯の自分にはまず出来ない事と考えています。
そんな作品の中には、Ukiyoe−Todayのシリーズも10点以上入っています。今回の出品で最後になるのは
、 White Fox Picnic−1 (List 11)
Two Cranes −2 (List 25)
Red Cap (List 28) の3点です。
3.特別な評価を受けた作品。
1995年、私は、CWAJ40周年記念版画家奨励賞を受賞しました。この賞は5年に一度、二人の版画家に与えられる賞で、私の場合、シリーズ「アジアの子どもたち」が受賞の対象でした。その授賞式には皇太子妃雅子様が御臨席されました。その対象作品の内、今回の出品作は
Young Girl in Tutong (List 7)
Market Day (List 27) の2点です。
1992年、CWAJ現代版画展において、「日本の着物」をテーマとした特別展があり、私の作品も招待され、開会式に御臨席の秋篠宮妃紀子様に御説明申し上げた作品の内、今回の出品作
South Island Festival Girl (List 16) この作品は私の代表作の一つとみなされ、CWAJのカレンダー、航空会社の機内誌、アメリカンクラブの機関紙の表紙、美術雑誌など、多くに紹介されました。
4.個人的な思い、制作の秘密を隠し持つ作品
私は時々、自分の作品の中に、特別意味を持つプライベートな出来事や、個人的な思い、その作品にまつわる、他人には話す事のできない秘密を、ローマ字や英語の隠し文字として彫り込みます。見つけることは難しいのですが、その様なメッセージを入れた作品の内、今回の出品作は、
White Fox temptation (List 12)
First Love 14 (List 14)
Summer Festival (List 23)
Farewell (List 78)の4点です。
5.保存していた、エディション1番の作品
自分の愛着の強い作品は、エディション一番を手元においていつも眺めています。今回はその1番も出品しました。
Home (summer) (List 9) First Love #10 (list 35)
First Love #22 (list 22) First Love #18 (list 36)
First Love #3 (List 30) My favorite cap (list 60)
Farewell (list 78) の7点
長くなりました、最後にいくつか、どうしても書いておきたいことを。
Home (Summer) (List 9) この作品は、あまりにも細かく大変で、途中何度か完成をあきらめ、なげだし、彫初めからその完成までに5年を費やしました。いまでも、良く完成できたなあと思っています。
Secret Picnic #2 (List 5) この作品を作る事により、、私は細い線の美しさに、改めて気付きました。また、自信を持って精密な線を彫り出す事ができるようにもなりました。この作品以前と以後とでは、墨線の感じが違ってきます。その意味で、私にとって意義ある作品なのです。
今回の出品作の中には、摺りや紙の状態が、必ずしも完璧とは言えない物も有ります。あえてそれを承知で選んだのは、外す事のできない作品と考えたからです。つまり是非見て頂きたい作品なのです。
また、作品によっては、余白の四隅に針穴が有る物がありますが、これは、私のWeb-Siteに載せるために、壁にピンで張り付け撮影した為に出来たものです。
まだまだ、書きたいことはあるのですが、この辺で筆を置きましょう。
来月のオークション、楽しみにしています。
それではまた。
岡本 流生
YOSHIDA HANGA ACADEMY 展の件について
以前メールでお話した、アカデミー展と時期を一緒にしたオークションについて。
次回のアカデミー展は、来年の2月、世田谷区立美術館で開催される事に決まりました。 そのご3ヶ月ほど各地を巡回展示される予定。
アカデミーの会員に、オークションの件を提案したところ、吉田司さんを含め、多くの方が賛成されました。
私の考えですが、参加者は10名ほどかとおもいます。実現できるようなら、展覧会の出品作にこだわらず、各参加者の代表作を、私の方からまとめて送りたいと考えています。
送り出す時期は3月中になると思います。出品作のリスト、作家の簡単な経歴も同時に送るつもりです。
売り上げは各作家の口座に振り込み頂き、売れ残った作品はまとめて私の方に送り返していただければと考えます。
そちらのお考えなど、以後、メールでもお聞かせ下さい。